01
――探偵として必要なものはなんだと思いますか?  やっぱり何より推理力。……なんでそこで微妙な顔すんだよ、失礼な。俺の推理力は何度も見てるじゃん。  ……え?犯人は勘でわかる奴が言うセリフじゃない?探偵とは99%の推理力と1%の直感だっていう言葉知らない?  ……あるよ、自由研究で探偵について調べた俺が言うんだから。卒論じゃないのかって?だってそりゃ俺美大出身だし、探偵のこと卒論にかけるわけないじゃん。 (以上、10月の取材記録より一部抜粋)  朝6時に呼び出しの電話がかかるというのはやはりどうかしていないだろうか。半分寝ぼけたような状態のまま俺は通話ボタンを押した。 「……はい」 「おー、おはよう。起きた?」 「起きた?じゃなくて起こされたんだよ。……どこ行けばいい?」 「話が早くて助かるわ。えーとちょっと待って」  電波の向こうでごそごそと何かを探している音が聞こえる。その隙にスピーカーモードに切り替えて俺はベッドから起き上がった。  気持ちのいい朝とはとてもいえない。本当ならばもう2時間は寝てのんびり朝食を作っていただろうに。2時間前に起きて食事は車内で食べるおにぎりだ。悲しい。まさに社畜の極み。……フリーライターだから社畜とはいわないだろうか。  どうやら目当てのものを見つけたらしい声の主が住所を読み上げる。藤村坂邸ということは今回の舞台は館らしい。住所からするとここから車で2時間はかかる場所だが、それにしても。 「なんでこんなに早く電話したんだよ。8時から始めるとか言わないよな?」 「言わない言わない。10時ぐらいからじゃない?」 「じゃあなんで」 「準備する時間ないと怒るじゃん。俺なりの気遣い」 「……それはどうも。お気遣いに涙が出そう」 「うちはホワイト企業だから」 「俺はあくまでフリーライターなんだけど」 「そのこだわりなんだよ。まぁほら業務提携先にも優しくってことで。あ、お礼は今度ご飯を作りにきてくれたらいいから」 「お礼とかいいだす時点で優しくないじゃん」 「スグがこの前食べたビーフシチューが美味しかったってさ」 「それぐらい頼め、いいとこで」 「文人はスグの喜ぶ顔が見たくないんだ?」 「別に結構です」 「またまたぁ。まぁいいや。事件の概略はメールしとくから確認しといて。結構山奥だから安全第一でよろしく」 「殺人が起こってる現場にいるやつが言うな」  そりゃそうだ、とけらけらとした笑い声を最後に電話は切れた。溜息が出る。  殺人犯と同じ屋根の下にいるだろうにどうしてあいつらはあんなに緊張感がないのか。いくら犯人がわかっているとはいえど呑気すぎないか。  しかし理解に苦しむことを考えている暇はない。気遣いで猶予が与えられたおかげで車の中でおにぎりという事態は避けられそうだが、時間がないのには変わりはない。  そもそもその緊張感のないやつらのおかげで駆け出しのフリーライターでも十分なほど飯が食えているのだ。俺にとやかく言える権利はない。たとえそれはもうものすごく不本意であっても。  彼の名探偵天見優の取材を許されている、といえば恐らく100人中100人の記者がうらやましがるだろう。一体どうやって、紹介してくれないかというやつもいるかもしれない。  この現代において「探偵」という職業で有名になる人物である。一度ぐらい取材をしてみたい記者心がくすぐられるのも無理はない。  俺がこうして朝からどこぞともしれない館へ向かう羽目になったのも、最初はそうした記者心が原因だった。  新卒で就職した出版社を退職し、フリーライターという道を選んだものの、そう名の売れていない小童が食べていくにはいささか世の中は厳しかった。小銭稼ぎでやっている得体のしれない文章をネットにアップすることですらライター業といわれる時代である。自称フリーライターはあまりに世に多すぎた。  貯金こそあったものの、それを食いつぶしていくわけにはいかない。やはり俺には早すぎたのかと頭を抱え始めたときに友人が紹介してくれたのが「探偵 天見の取材」だった。 「そうだ、文人。探偵の取材興味ない?」 「探偵?」 「そ、私が貸してるビルで事務所やってて、天見って知ってる?」  まるでちょっとカフェにでもという気軽さで言われた名前に俺は飲んでいたコーヒーをおもいきりふきだしたのは今でもネタにされる思い出である。  「コーヒーで虹が出来るんだって初めて知ったわよ」と豪快に笑うのはそろそろやめてほしい。  いまの俺なら間違いなく絶対に嫌だと首を振るだろうが、その頃の俺にはこれ以上ないほどのチャンスに見えた。  何せあの「名探偵」である。警察が手をこまねいていた大学での密室殺人事件の解決から始まった快進撃。日本事件界に彗星の如く現れた百戦錬磨の推理の申し子。すさまじいスピード解決が売り。ついでに容姿端麗。あまりメディアに出ることはないが、それが逆に注目を集めた。一部のファンの間では半ば神様のように扱われているという。  そこまでいくとどうかと思うが、それほどまでに思われている相手に取材が出来るというのは間違いなくライターとしては名前を売り出す絶好の機会だ。探偵事務所の場所はタウンワークにも載っていたし、検索にかければ一発で出るが、何人もの記者が門前払いを食らっているのも有名な話だった。  一も二もなく頷いた俺に友人は「いいやつだからしっかり書いてやってよ」とウインクしてみせた。……今思えばあのウインクを信じるべきではなかったのだ。恨むぞエリー。だがエリー本人は心の底から「いいやつ」だと思っているには違いないし、俺がへまをしなければよかっただけの話なので、結論はいつだって「俺が悪い」になる。  思い出すだけで頭の痛むような後悔にうんうん唸っているとカーナビが「目的地周辺です」と無慈悲に告げた。気づけばかなり山の中に入ってしまっているが、こんなところに館があるのか。いやこんなところだからそういう館があるのか。あつらえ向きのセッティングである。  時刻はもうまもなく10時半。しかし今がもう春でよかった。冬だったら来いと言われても雪でこれなかったかもしれない。それほどの山の中だった。  しばらく道なりにすすんでいく。道路はきちんと整備されている辺りやはり人は住んでいるのだろう。今回の事件の主役である藤村坂一家は代々の資産家でしかもそれにおごらずに投資で成功している。それだけ金を稼ぐと自分だけの城に引きこもりたくなるのかもしれない。  ……まぁその城で死んでいたらわけないが。 「お」  急に道が開けた。道路の先が広場のようになっている。その先には俺の背丈の倍はある門。でかすぎない?これも金持ちの道楽か?  門は開いているが、その横にはこの自然の中でいささか不自然な色合いがあった。今日も今日とてピンク髪は変わらないらしい。 車を近づけて窓を開けば門の横にいた男は「よ」と車をのぞき込んできた。 「車、どうする?中に駐車場あるけど」 「じゃあそっちに停めてくる」  オッケーじゃああっちと指さす方向に車を進めればしっかり案内した本人の車もあった。その横に停めて降りれば山の空気が肺を満たす。綺麗に晴れているのですがすがしいはずだが、どんより重い気がするのは俺の心持ちのせいか。  しかし間近で見てもすごい屋敷である。三階建ての外観は余すところなく凝っている。西洋風の城のような外見はこの山奥に確かな存在感を持っていた。……天見、喜んでそうだな。いかにもすぎる。 「すげぇ屋敷だよな」  いつの間にか横にやってきた男も同じように屋敷を見上げる。いつも通りの白シャツにスキニーだが、上は珍しくジャケットだった。 「そのすげぇ屋敷に何で来たわけ?」 「ん?十五年前に死んだはずの息子を名乗る人物から殺人予告が来たからっていう依頼」 「……いかにもだな」 「でしょ」  そしてその殺人予告は果たされているわけである。メールには簡単な概要しか載っていなかったが人が死んでいる現場であるには違いない。  それでも横にいる探偵助手、操はどこまでもいつも通りだ。本当に冗談じゃない。  事件あるところに天見ありと巷ではいわれているほど天見の探偵としての場数の踏み方は異常だ。その助手という立場上、当たり前なのかもしれない。  しかし天見のそばにいるから慣れた、だけではすまないのがこの男である。  この男が助手でなければ俺は天見お抱えのライターにはならなかった。そもそも操がいなければ天見は探偵として成功をすることはなかったはずだ。元凶は天見本人にあるが、それにせっせと水をやり花をさかせたのは間違いなく横であくびを噛み殺す彼だった。 「しかし朝から殺人とは元気だよな。朝5時からよくできるよな」 「警察は?」 「来ても11時過ぎる」  なるほど、俺を早く呼んだのはその前に終わらせるためだったわけだ。 「それでもう始まるわけ?」 「あー、うん。もうそろそろ。えーっと食堂にした。暖炉とかもあってなんかそれっぽいし」  行こうか、と操が歩き出す。どうであれ、これは仕事だ。俺にもライターとしての矜持がある。もうここから先はため息をついている場合じゃない。  操が押した扉が開く音もどこか重々しい。天見の取材をするようになって殺人が起きた現場に居合わせたことはもう両手の指で数えきれなくなりつつあるが、慣れるものではないし、慣れる必要もない。手の先が冷たくなるのはずっとかわらない。 「あ」 「……なに?」 「そういえば朝のビーフシチュー忘れてないからな」 「今言うこと?」  前言撤回、もう一度俺は溜息を吐いた。閉じた扉の音に反して操はやはり軽かった。  ところで探偵にも作法があるというのをご存じだろうか。俺は天見がもっともらしく語るまで知らなかった。  外観と同じぐらい仰々しい作りのここは食堂というどこかオカン的な響きとは縁遠い。どちらかといえばホールに近い。広いダイニングテーブルも椅子も想像つかない値段のものだ。そこに座る人間は藤村坂一家5人とその使用人2人。今回殺された藤村坂の現当主である父親が座る席はぽっかりと空いている。  操のいった通り暖炉がある。だが実際に使っているわけではなく形だけなのだろう。うーん道楽。  だがその道楽さえももはや彼の前では一種の演出だ。暖炉の前、金髪に染めた髪を揺らす天見は元の美貌も相まってそこだけ異世界のような雰囲気を醸し出している。何が始まるのかと怯える目の前の7人とは対照的に軽やかに口を開いた。 「さて――」  探偵の作法にのっとって。  それを合図に俺は手の中のボイスレコーダーの録音ボタンを押した。 「今回の事件、発端は十五年前に亡くなったという息子さんを名乗る人物からの手紙でした」  発端という割にはやや雑に天見が封筒をかざしてみせた。 「もちろん亡くなった人は手紙を出すことができません。もしそれができたらもっと話が早かったんでしょうけど」 「それを出したヤツが犯人なのか?」  奥から二番目に座っているがたいのいい男、長男が声をあげる。その横に座る長い黒髪の次女が「ちょっとお兄ちゃん」といさめる。 「まぁまぁ。結論は急ぐものじゃないですよ」  いや急げよ。思わず突っ込んだが、俺以外は雰囲気に飲まれているのか何も言わない。ちらりと横にいる操を見ればこいつはこいつで状況を丸無視してほおを緩めている。許されればいろいろ放り出してビデオカメラを回しそうな勢いである。  天見の言葉は的確に犯人の逃げ道を詰んでいく。早朝に殺人を犯さなければいけなかった理由、閉ざされていた扉と窓の謎、死因。こういうときの天見はよく口が回る。そうじゃなきゃ探偵なんて務まらないだろうが、普段を知っているだけに何度見ても舞台役者を見ているような気分にもなる。 「これが事件のすべてで、そしてこれを実行できるのはただ一人。……それがあなたです」  白い手がまっすぐ指し示す。その先にいたのはさっき次女にいさめられていた長男だった。しかし動揺したのは周りのほうで長男本人は腕組みをしたまま鼻で笑って見せた。 「おいおい、探偵さん。冗談だろ?」 「ここにきて冗談ですなんていいませんよ」 「証拠は?あんたが言ったのは全部状況から見ただけの推測だ」  やけに自信ありげである。絶対にぼろを出していないと思っているのだろう。俺としては自分の父親を殺すのにそれほど冷静にいられたということを誇るほうがどうかと思う。  それに彼がいかに冷静でいられたか、ミスなく殺人を犯せたかは関係ないのだ。この場においては。 「証拠はこれです」  天見がポケットの中から小さく折りたたんだジップロックを取り出す。袋の中で金属の擦れ合う音がする。なんの変哲もない犬のキーホルダーだ。赤黒く汚れているのは血だろうか。  しかし長男、いや容疑者として集められた全員にとっては決定的なものだったらしく、空気がざわっと変色する。三女が「お兄ちゃんのだわ」と震える声でつぶやいた。 「そ、それは……」 「あなたのものですよね。昨日お会いしたときに持っているのを見ました。どこにあったと思います?」 「……」 「現場に落ちてました。あなたが隠れるまで開けられなかった部屋の奥に」 「そ、そんなはずはない!でたらめだ!」 「でたらめかどうかはこの血が被害者のものか調べればわかります」 「そんな、だって俺は……確認したはずなのに……」  長男が力なく机に突っ伏し肩をふるわせる。幕引きだ。相変わらずのスピード解決である。「どうして」「なんで」と糾弾する元容疑者たちに「仕方なかったんだ」と長男が動機を話し始める。この状況を作り出した探偵本人はその様子をぼんやり眺めている。誰ももう見ていないとおもうがわりとわかりやすく興味なさそうな顔をするのはどうかと思うぞ、天見よ。  横にいる操に視線を向ければ目があった。いえーいと場に似つかわしくないピースをされる。実は愛人の子で母さんを蔑ろにされたのが許せなかったと語る長男もその話を涙ながらに聞く家族も坊ちゃまは坊ちゃまですという使用人も、そしてそれを見ている天見も、誰も知らないだろう。  この俺の横にいる助手の手癖がとんでもなく悪いことを。  長男は事件現場にキーホルダーなど落としていなかったのだろう。本人がいった「確認したはずなのに」は間違っていない。ではなぜ事件現場にキーホルダーがあったか。本人以外の答えがあるわけがない。そしてその答えを出すのに天見のような探偵の才能など必要ない。  その答えこそが俺の横にいる男だった。よく考えなくとも犯罪すれすれである。探偵の助手がどうしてそんな真似をしているのか。  理由は簡単だ。操が天見の助手であり、天見が探偵だからだ。  天見は探偵だ。けれど物語の探偵のように証拠や状況を積み重ねた上で犯人という結論を出すのではない。天見にとって犯人とは見つけるものではないのだ。  名探偵曰く。  ――俺、犯人がわかるんだよね。  俺には、というかおそらく天見本人にもどういう仕組みかはわかっていないらしい。顔さえ見ればわかってしまう。第六感的なもの。ちなみにババ抜きをすれば誰がババを持っているかわかり、人狼ゲームをすれば誰が人狼なのかもわかる。とんだゲームバランスの崩壊である。  みれば犯人がわかるというのは探偵にとってこれ以上にない能力だと思えるがことはそう簡単ではないらしい。証拠もなにもなくいきなり「あの人が犯人です」というのは怪しさ極まりないし、そもそもそれ以前の問題が天見にはある。犯人が一発でわかるという能力の優位性をで覆すようなものが。  助手曰く。  ――スグはさ、犯人は一発でわかる代わりに証拠を見つける能力がないんだよ。  こちらも仕組みはわからない。そういった才能がないという一言で片付けることもできるし、犯人がわかるという能力の代償かもしれない。頭の回転は速いほうだし、推論も組み立てることが天見にはできる。だが、犯人を詰めるための証拠が彼には見つけられないのだ。見落としてしまう。どれだけわかりやすくとも、眼の前にあっても。  では証拠を見つけられない人間が探偵になるにはどうすればいいか。  簡単だ。証拠を用意すればいい。  つまり操がしているのはそういうことだった。  犯人はわかっているのだ。その証拠を用意するのはさほど難しいことではないし、犯罪という非日常な場において何のミスもなく行動できたかということを胸を張って言える人間は存在しないに等しいだろう。  天見の指摘に沿って操はこっそり証拠を用意する。そうして名探偵はできあがっているのだ。  どうしてそんな吊橋どころか糸の上を渡ろうとするような真似をしているのか。俺はその仔細はしらない。知ることはないのだろう。俺だって馬に蹴られたくないのし、ゴシップは専門外だ。  というか俺だってたまたま気づいてしまっただけで名探偵の真実なんて知りたくはなかったのだ。そりゃ最初気づいたときはもうこれはネタにするしかない、こんなネタをすっぱぬくことができればただのフリーライターから一躍時の人である。ライター人生に賭けても、とあのときの俺は間違いなく燃えていた。  結局どうなったかということはあまり思い出したくない。  唯一言えるのは俺は探偵天見の活躍を事細かに、華々しく伝える唯一の記者となった。ついでに取らぬ狸の皮算用はよくないという教訓も得た。  遠くから聞こえるパトカーのサイレンが寝不足の頭に響く。  そういえば朝のビーフシチュー、結局本気なんだろうか。 **  本気だった。  二時間の道を再び走り、ビーフシチューの具材を買い(経費)、俺は天見探偵事務所のキッチンに立たせられていた。  無事に警察も到着し、長男はお縄となった。警察が到着する前のスピード解決。今日の夕方にはニュースになるだろう。これはこれで話題だ。探偵としての天見の株はまたあがるはずだ。  俺としてはさっさとその記事を書きあげてしまいたかったのだが、引っ捕らえられてしまいこのざまである。どうせ俺の分も作るし、食費も浮くので悪くはない。料理しないくせになぞのこだわりでキッチン器具はいいものそろってるしな、この事務所。というか探偵事務所にこんな立派なシステムキッチンいらないだろ。 「操ー、さっき買ったアイス食べていい?」 「いいけどソファにこぼさないようにね」 「いいわけあるか。食べるな、ご飯の前に」 「シャーベットだからほぼ水だって、水」 「そうそう、それに労働したスグの頭脳には糖分が必要だからね」 「そうですか……」  諦めた俺の横でいそいそと天見が冷凍庫を開いてさっき買ったシャーベットを取り出す。その姿は小学生じみていて数時間前まで朝から殺人現場で謎解きをしていた人間とは思えない。時々わりと本気で疑ってしまう、いろいろと。  それをいえば操もそうなのだが。来客用のソファに寝そべってシャーベットを食べ始めた天見を見る操の視線は完全に溶けきっている。おそらく長男から盗んだのだろうキーホルダーを証拠としてでっち上げた人間とは思えない。  天見の前では操はどこまでも甘く、優秀な探偵助手だった。  天見が探偵である限り、操も天見の前ではそうであり続けるのだろう。  しかし、である。ふつふつと煮える鍋を見ながら考える。  天見は犯人がわかる。その能力はなにも殺人事件だけにとどまらない。実際、コンビニで万引き犯を仕留めたこともある。無差別犯罪センサーのようなものなのだ。  ならば証拠ねつ造をしている操もまたそれにひっかかるのではないだろうか。 「スグは気づいてないし、知らない。俺が勝手にやってることだから」  そのことを指摘したとき、操はそういった。無表情に言い放ったそれに俺は思わず言いたかった言葉を飲み込んだのだ。  操、お前のその献身の果てにどうしたいんだ。本当は天見は気づいているとしたら、お前はどうするんだ。  鍋に蓋をする。ついでにそんなつまらない考えにも。