流れ星という流れ星を爆破する仕事をするはめになった。
というのも流れ星に願いをかける人が増えすぎた結果、流れ星の重量があまりに重くなり、地面に落ちようものならば核まで到達するレベルの穴を開けかねないという結論に達したからだった。
このことを知っているのは限られた人間のみである。俺もこの仕事に任命されるまでまさか流れ星の重さが人間の願いに比例するとは思いもしなかった。
しかもどうやら願いは蓄積されるらしく、今の流れ星には「流れ星に願いを唱えると叶う」という伝承ができて以来すべての願いが乗っていることになる。
それはまぁ地球の核にまで達するほどになっているだろう。人の願いに果てはないのだ。
その結果、秘密裏に誕生したのが俺が異動を命じられた流れ星到達阻止部隊であった。
「しかしまぁあんまり気分が良くはないっすよね」
流れ星到達阻止部隊に配属されたものは戦闘機に乗り込んで流れ星を撃墜する者と流れ星の軌道をモニタリングするオペレーターの2人一組で担当地域に配属された。
俺のオペレーターとして配属されたのがこの遠藤という男だった。
かなり気楽な口調で話しかけてくるが、オペレーターとしての仕事ぶりは優秀だ。俺もここに配属される前にその噂は聞いたことがあった。
「何がだ」
「何ってこの仕事がですよ。流れ星落とすのなんて気分悪くないですか。待ってる人いるっていうのに」
「願いが叶ってもその前に地球がおしゃかになったら元も子もないだろう」
「それはそうですけど、気持ちの問題ですって。例えばほら、X575Y3662Z665の座標のとこ、あそこキャンプなんですよ。あそこで子供が一生懸命流れ星落ちてくるの待ってたりすんのかなぁと思うと」
「今の願いが叶うのと来年キャンプができるの、どっちがましだ」
「だから気持ちの問題ですって」
不貞腐れた遠藤の声が「ちゃんと仕事してるでしょ」と付け加える。
「大体むかぁしの人が願いまくった結果、俺たちが願えなくなったりそれどころか流れ星撃ち落とす仕事してんの、ツケ払いの極みじゃないですか」
「……」
とんだ負債だとは俺も思ったことがあったので否定も肯定もしないことにした。
「いつからなんだろうな」
「何が?」
「流れ星に願うと願いが叶うなんて事が言われでしたのは」
「さぁ。でも昔から占いには使われてたんだからやっぱ祈りたくなるものだったんじゃないですか、星って。実際ただのゴミだとわかってもロマンチックですしね」
「お前も何か祈ったことはあるのか」
この仕事にしては随分と情緒的な男なのでそういうことを信じている子供だったのだろう。
勝手にそう思っていると答えは意外なことに「いえ?」だった。
「信じてなかったというより興味なかったですね。自分の願いは自分で叶えたい派だったので。金山さんは?」
「俺は……」
それこそ昔キャンプで祈った記憶がある。父親から借りた望遠鏡で熱心に落ちてくる光を探していた。
なんと祈ったかは覚えていない。願いとは結局その程度のものなのだ。
その程度の軽さのものが積み重なり、いつしか地球を破壊できるものになった。
「あ、金山さん。そろそろ落ちてきます。場所はさっきのキャンプの真上です」
「……了解」
搭載されたスコープで言われた場所へ狙いを定める。
数千年にも渡る願いを記録した炎が落ちてくるのが見える。
あの星は俺が忘れてしまった願いも覚えているのだろうか。